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有名なベゴニアの名前が変った?

  • 1月25日
  • 読了時間: 5分

Begonia longiciliata

 

最近たまに見かけるようになったベゴニアの種名。

みなさんはこの種名を聞いて、どのようなベゴニアか思い浮かびますか?

 


実はBegonia sizemoreaeのことなのです。

 

いったい何が起こったのか?

 

2020年に発表された論文(Tian et al., 2020)※1において、ベゴニアの研究チームが詳細な比較検討を行った結果、「B. sizemoreae と B. longiciliata は、実は同じ種である」という結論が出されました。


先取権のルール: 植物の学名には「より早く正しく発表された名前を優先する」というルールがあります。


Begonia longiciliata: 1995年に記載

Begonia sizemoreae: 2004年に記載



このため、より古い名前である 「longiciliata」が正式な学名となり、sizemoreae はそのシノニム(同物異名)として扱われることになりました。

世界的な植物データベースである『Kew王立植物園 (POWO)』などでも、すでにこの変更が反映されています。


学術的には統合されましたが、園芸市場では「sizemoreae」という名前があまりにも有名で定着しているため、現在は以下のような表記で流通することもでてきています。


Begonia longiciliata 'Sizemoreae'(品種名扱いにする)

Begonia longiciliata (syn. sizemoreae)(旧名を併記する 推奨

 

※1. 2020年に発表された論文は、ベゴニア研究の第一人者である田 代科(Dai-Ke Tian)博士らによる大規模な再分類プロジェクトの成果です。

この論文は、単に2つの種を統合しただけでなく、中国からベトナムにかけて分布する特定のグループ全体を整理した非常に重要な文献です。


1. 論文の基本情報


論文タイトル: Taxonomic revision of Begonia sect. Coelocentrum (Begoniaceae) in China and Vietnam (中国およびベトナムにおけるベゴニア属Coelocentrum節の分類学的再検討)

著者: Dai-Ke Tian(田 代科), Yan-Nan Liu, Rui-Feng Huang, et al.

掲載誌: 『Phytotaxa』 Vol. 453, No. 3

発行日: 2020年7月20日

発表元: 上海辰山植物園(Shanghai Chenshan Botanical Garden / 辰山植物科学研究センター)


2. 研究の背景:Coelocentrum(コエロセントラム)節とは



この論文が対象とした「Coelocentrum節」は、中国南部からベトナム北部の石灰岩地帯に自生するグループです。

特徴として、子房の中に「側膜胎座(そくまくたいざ)」という特殊な構造を持ちます。

園芸的に人気の高い「黒いベゴニア」や「派手な模様のベゴニア」の多くがこの節に含まれます。


3. なぜ統合されたのか(論文の内容)


田博士らは、中国とベトナムの両方で広範なフィールド調査を行い、野生個体群と栽培個体(タイプ標本を含む)を詳細に比較しました。



統合の経緯

Begonia longiciliata (1995年記載): 中国・雲南省で発見された個体に基づき、中国の植物学者 C.Y. Wu によって命名されました。


Begonia sizemoreae (2004年記載): ベトナム北部で採集され、アメリカのコレクター、メアリー・サイズモア(Mary Sizemore)氏が紹介した株に基づき、ルース・キュー(Ruth Kiew)博士によって命名されました。


論文での指摘

論文内では、以下の点が一致していることが示されました。

毛の構造: 葉の表面にある、非常に長くて目立つ「多細胞の軟毛(long ciliate hairs)」。

花の構造: 雄花と雌花のテパル(花被片)の数、および葯(しべ)の形状。

果実: 翼(よく)の形とサイズ。

これらを確認した結果、「これらは同一種の地域変異、あるいは単なる同種である」と断定されました。命名規則により、1995年に発表されていた B. longiciliata が正式な名前として生き残りました。


なぜ統合されたのか?

田博士らは論文内でこう述べています。

「これまでの研究者は、標本の一部(葉の形や色のわずかな違い)だけを見て新種だと言い過ぎていた。実際に現地で数千個体を観察すると、それらは連続した変化(個体差)の中に収まっている。」

つまり、私たちが「別物だ!」と喜んでいた色の違いも、人間でいう「背が高いか低いか」程度の違いだった、というわけです。

 

~蛇足ですが、ここで植物分類学的な視点でみてみましょう。~


現代の分類学は、見た目・DNA・地理的情報の3つを組み合わせる「統合分類学(Integrative Taxonomy)」という手法が主流になっています。



1. 2020年論文で行われた「DNA解析」

この研究では、中国やベトナムから集めた大量のサンプルに対して、以下のような分子生物学的な調査が行われました。


系統解析(Molecular Phylogenetics): 葉から抽出したDNAの特定の領域(核DNAのITS領域や、葉緑体DNAなど)を解析し、家系図のような「系統樹」を作成しました。


判明したこと: 「別種」だと思われていた B. sizemoreae と B. longiciliata の検体が、遺伝子レベルで区別がつかないほど近い、あるいは同じグループ(クレード)に収まってしまったのです。

人間で例えると、「金髪の人」と「黒髪の人」をDNA鑑定したら、同じ家族(あるいは同一民族)だった、というような結果が出たわけです。


2. なぜ「見た目」も重視されるのか?

DNAで「同じ」と出ても、見た目が全然違えば「変種」として残すこともあります。しかし、この論文ではDNAの結果を受けて、改めて「見た目」を科学的に再検証しました。


個体差の再定義: 以前は「葉の模様が違うから新種だ!」とされていましたが、現地で数千個体を調べたところ、「同じ場所に、模様がある株も無い株も混ざって生えている」ことが確認されました。


花の構造の再確認: ベゴニアの種を分ける最も強力な証拠は「花の作り(特に胎座の形やテパルの数)」です。DNAで同じだと出た個体群を調べ直したところ、花の構造に明確な差が見られなかったため、「これは一つの種だ」という確信に至ったのです。



3. 「見た目同定」の落とし穴をDNAが暴いた

以前の分類(特に2000年代初頭まで)は、以下のような理由で「新種」が乱立していました。


サンプル不足:少数の標本(たまたま模様が派手な個体など)だけを見て、「これは新種だ!」と発表してしまった。


国境の壁: 中国の学者が中国側で、ベトナムの学者がベトナム側で別々に名前をつけてしまい、実は地続きで同じものが生えていたことに気づかなかった。


田博士らの2020年論文は、DNAという「科学的な物差し」を使って、こうした国境や個体差による混乱をバッサリと切り捨てたものなのです。

 

いかがでしたでしょう?

原種ベゴニアは世界中におよそ2100種ほどあるとされ、B.sp.○○やU○○など未解明の品種等も多く存在しています。

そのため今後も新種の発表や今回のような分類・統合も起こるでしょう。これからも「不思議の迷宮」原種ベゴニアワールドから目が離せませんね。

 
 
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